こどもの森卒業生インタビュープロジェクト第6弾は、現在ニュージーランドのカンタベリー大学で学んでいらっしゃるケインさんにお話を伺いました。
ケインさんプロフィール
・2002年生まれ、23歳。カンタベリー大学・環境学専攻 3年生(2025年7月現在)
・こどもの森在籍期間:小6~中2まで(2014~2017, 中学部1期生)
・今の自分を表す言葉:「向かってくる波に、できる限り乗る」
*本記事は、卒業生の語りをなるべく忠実に伝えることを大切にしています。そのため、成長の途上にある姿や、まだ言葉になりきらない思いも含めて、等身大の今をそのまま受け止めながら記録しています。
大学生活で得た学びと成長
――現在ケイン君はニュージーランドのカンタベリー大学に通っていると伺いました。どのような大学生活を過ごしていらっしゃいますか?
大学では環境理学(environmental science)と地理学(geography)の授業を受けて、日本文化サークルみたいなのがあるんですけど、それの実行委員の一人もやらせてもらっています。
――まず環境理学と地理学について、どのような内容か教えてもらえますか?
はい。気候変動であったりとか、環境のいい街づくりとか。あとは、普通の天気とかの状況とか。結構幅広い分野で、地形学から地理学、社会学と、かなり色々諸々含んでいて、広く浅くやっている感じなんですけれども。ん~、恐らく、気候変動に関して一番たくさん学ぶし、今は気候変動の要因とかフォーカスしているかな。
――今の学びは楽しいですか?また、どのようなところが楽しいですか?
はい。楽しいです。う~ん。どこが楽しいか?なんか、結構色々な、こういう見方もあったんだとかっていうのを見させてくれる教授がいらっしゃったりして。例えば、気候変動があったとき、結構デメリットとかがメディアで主流に話されているんですが、実は気候変動があることでメリットもあったりするんで、まあそういうのも学べたりもするので。そういうのもいいなって思います。
――なるほど。興味深い分野ですね。もっと詳しくお伺いしたい(笑)
今の大学生活はとても充実していらっしゃると思うのですが、どのような気持ちで過ごしていらっしゃいますか?
大学だけで考えると、知識を得られる楽しさがあるんですけれども、それ以外に大学でいろいろな機会があるっていうか、行くだけで(そういう機会が)あるんで。
「これやらないですか?」とか「これ興味ないですか?」とか宣伝している人がいて。あと、大学の掲示板にもいろんなイベントがいっぱいあるんで、それをいつもよく見ていて、面白そうだなって思ったものに積極的に参加することで、いろんな経験ができてそれが楽しいっていうか、楽しみです。
――聞いている私までワクワクしてきました(笑)
そうなんです。ワクワクするんですよ。

植林活動をするケインさん
――では、そういった今の気持ちを踏まえて、今の自分の生き方を端的に表す言葉や一文を教えて頂けますか?
はい。考えてきました。(この項目は事前にお伝えしていました)
【向かってくる波に、できる限り乗る】というので、その、結構最近だと、波に乗ったのは「ティーチングアシスタントになりませんか?」って言われたんですよ。それに応募してみたり。あとはクラスの代表みたいなのをやっていて、学生が持っている悩みを聞いて先生に伝えるっていう。それに挑戦してみたり。そういう何か経験を得る機会があると積極的に応募するというか、まあスケジュールが合えば受けるというのを結構心掛けています。
――なるほど。大学に行くと、様々な機会(波)があって、タイミングが合えば必ずその波に乗る。そしてその波に乗って、様々な経験をしてどんどん色んなことにチャレンジしていく。そんな感じですか?
そうですね。何があるかわからないんですけど、とりあえずやってみるっていうのが楽しみですね。
――新しいことにチャレンジする不安はないですか?
いや、最初の方はあったんですよ。でも、なんかね、沢山やっていくうちに、なんか全然いいんだなって。多分、ニュージーランド来る前は、どうだろうとか、上手くいかないだろうなとか思ってたんですけど、(たくさん経験するうちに)チャレンジしてみて失敗したらそれでいいですし、成功するかもしれないし。でもやってみなければ必ず100%失敗するんですよ。それだったら、まあやってみるしかないねっていうのにまた気づくっていう。だから、今は全く不安はないです。
――失うもの全くないですもんね。
そうそう(笑)何も失わない。
こどもの森を巣立って―今に至るまでの軌跡
――ではここからはこどもの森を卒業してから現在までの歩みを教えて頂けますか?
はい。実は僕中学卒業していないんですよ。中2で辞めてそのまま高校に行ったんです。もともとインターナショナルスクールに行っていたので、1学年遅らせて入学したんです。だから留年してるみたいな感じになっちゃっていて、それが嫌で早く高校には行きたかった(笑)
でも、高校受験の勉強全然していなくって、急いで勉強して何とか高校行けました。
高校はアサンプション国際高校っていう前は女子高だった学校なんですけど、僕の代から共学になったんですよ。で数学と英語だけで入試が受けられるっていう。国語が全然だめだったんで、国語をやらなくていい高校か、それと近くの工業高校かっていう感じでした。受験校は教科で決めた感じです(笑)
――高校から大学へは、どのような選択をされましたか?
高校から大学にいくときは、かなり色々受けて、近畿大学の理工学部の応用化学科に行きました。受かった中でも何だろうね、一番偏差値が高いというか、それとお父さんが近大で働いていることもあって決めました。でもちょうどコロナの時期で、先生にも何も聞けなくって、友達も作れなくって。で、一年半位で中退してそれから一年半ほど空けて、今のニュージーランドの大学に行きました。
――ニュージーランドのカンタベリー大学を選んだ理由は何ですか?
あのー、これ結構適当なんですけど、
もともと山登りが好きで、お父さんと山登りに行くときに、だいたい日本人の山登り大好きおじさんがいるんですけど、なぜかみんなニュージーランドに行ったことがあるんですよ。新婚旅行かなんかで。で、みんな「南島、きれいだよ~」みたいなこと言うんですよ。僕、南島行ったことなくって、南島は素晴らしいっていつの間にか洗脳されてて。
で、ニュージーランドではクライストチャーチくらいしか知らなかったんで、一番大きい街だし。それで調べたら、最初に出てきた大学がカンタベリー大学だったんです。
最初は、建築系の理工学部に入りたかったんですけど、数学の点数が足りないかなあとおもったり。でも、本当は勉強っていうより、建築現場に弟子入りして土木系の現場で働きたかったんですけど、運転免許証がないと働けなくって。僕その時持ってなかったんで。でとりあえず、運転免許取るまでの間に、大学行こうって思って。理系で結局一番簡単そうなの(文系分野も多く学ぶ学科)を選んだんですよ。当時、文系は簡単っていうイメージがあって。
でも、蓋を開けてみるとめっちゃ面白くって。ずっと勉強続けて、今では文系分野の方が難しいなって逆に思ってて。やっぱり、正解がないっていうか、結構深いんですよ。合格点を取るのは簡単なんですけど、いい点を取ろうとすると、(内容が)深いので何時間でも投入できるので、難しいなって。数学はその点一つしか答えがなくて、答えが分かったらやんなくていい。
――しっかり学ばなければ気づかないことですね。そうかあ、じゃあ環境の勉強がしたいとかそういうのではなく、流れに沿っていたら気づけば今の勉強が大好きになっていたというそんな感じ?
そうですね。そうです。もともと山登りが好きで環境が好きだったんですけど、まあこれにするかみたいな。とりあえず。
でも最初は、本当はちょっとだけ大学行って、土木の建築現場で働こうって思ってたんですけど、結局土木の仕事はやらなかったですね。
――どうして土木建築の現場で働きたかったの?
倉庫とか工事現場の前で立つとかのバイトをやってたんですけど、それで土木の人とか見てて、やってみたいなとかいうのがあったんですよ。で、あと職業適性試験みたいなのがあって、毎回(自分の適性が)大工って出るんすよ、一番に。だから、毎回それなんだなってちょっと思って、じゃあ大工やるかって
――なるほど。じゃあ、何かものを作ることが好きなのかしら?
はい。ものづくり大好きです。
社会とつながり、自分を知った場所―こどもの森
――こどもの森に入った経緯を教えていただけますか?
(こどもの森の)近くにおばあちゃんが住んでて、それで見つけてくれたんですよ。で、親が体験入学を申し込んでくれて。最初何だろうってよくわかんなかったんですけど、とりあえず体験入学してみたら、かなりものづくりができる(笑)
ものづくりできる学校なんてあるんだ!みたいな。ものづくり大好きだったんで、すごく行きたくなったんですよね。それで、家族の勧めもあったんですけど、最後は自分で志望しました。ものづくりが一番の決め手です。
――実際入学してみてどうでしたか?
最初の方は結構楽しくって、あのーなんですかね、特にルールもないし、みんな優しいし、頑張って勉強しなくてもなんか楽しく過ごせるのがすごくよかったです。でもそのうち自立するっていうことを覚えましたね。やっぱり、それまでは親にこれどう?あれどう?って聞くことも多くて、自分で考えるっていうこともあまりなかったんですけど、こどもの森にきて、(強制的にやることを)与えられないんで。高校受験したいなってなったときに自分から勉強しないとって気づいたんですよ。それまで知らなくて(笑)それが学べたので、すごくいい経験だなって、よかったと思います。それが今に生きていると思います。
――こどもの森で印象に残っていることはありますか?
すごいしょうもないことなんですけど、友達と棒でチャンバラごっこをする遊びが流行ってて、それがめちゃくちゃ楽しかった。段ボールをかぶって鎧にして、木工用の棒をテープで巻いたりして、危険な遊びをやっていました(笑)
二か月くらいやってて、そのうち新校舎なのに穴だらけにしてしまったりして。申し訳ないですね、ほんと今思えば。でも一期生の証っていうかね、叱られるかもしれないですけど。いやあ、ごめんなさい。で最終的には話し合いをして、みんなでやめた方がいいよねって、あんまり記憶ないんですけど納得してやめたと思います。でもとにかく楽しかった(笑)
あとは、夏祭りとかのイベントが楽しかったです。お店出したり、お店を順番に回ったり、ワクワクするような楽しいっていう思い出ばかりです。
――ものづくりが決め手で入学されましたが、何を作ったか覚えていらっしゃいますか?
う~ん。ゴミじゃないっすか?(笑)家では紙とセロテープだけだったんですが、こどもの森は色々と揃っているので、すげーって。だからワクワクして作った記憶はあるんですけど、何作ったかはあまり覚えていません。失敗作の動かないロボットとかかな(笑)
――今改めて振り返って、こどもの森での経験が自分にどのような影響を与えていると思いますか?
社会に出るための重要なスキルを学んだなって思います。
なんか、その、社会で求められている、人と会話するとかそういうことが、まともにできなかった思い出があるんです。こどもの森以前の記憶ってあんまないんです。っていうか、物事をあんまり見ていなかったというか、自分の世界にいて世間をそもそも見ていなかった。何となくインター(ナショナルスクール)で生きてた感じです。
小学校の頃は友達もほぼいなくて、中学に入ってから親友ができて、その人に色々教えてもらってだんだん社会を見るようになったと思うんです。でなんか、そっから、なんだろな、今生きている(現実の社会で)、今みているもの(自分の殻の中ではなく社会を)、そういうことの第一ステップがこどもの森だったと思います。だからそれがなかったら、きつかったです。そのまま普通の中学に行っていたら、社会と繋がらないままだったんじゃないかな。
こどもの森の2年間で、社会と接点を持たなかった自分が、現実の社会と繋がれるようになった。2年っていう短い間で、自分のペースで階段を登れるっていうのが凄く魅力的だなって。当時は全くそんなこと思わなかったんですけど、今振り返ってみて思うんですよ。それがなかったら、難しかったなって。う~ん、ただ授業を受けてやるのではなくて自分自身のペースで色々やるっていう。上手く表現するのが難しいんですけど。
「遠回り」がくれた、自分を信じる力
――様々な事にチャレンジしている今のケイン君は、こどもの森で過ごした2年間があってこそだったんですね。では、それも含めてこれまでの自分にとって、生き方や進路を決める転機だと思うような出来事はありますか?
う~ん。そうですね。
近畿大学を辞めた時とかじゃないですかね。
こどもの森は特殊だったんですけど、普通は中学、高校、大学っていくじゃないですか。でもそうじゃなくてもいいんだっていうのを分かっていなかったんですよ。
大学で単位が取れなかったとき、お父さんから、大学辞めてもいいんだよって言われて、それが結構うれしかったですね。それで、大学辞めて、自転車屋さんでバイトしながら、結構のんびり暮らしてたんですけど、自分探し的なことを一年半くらいしていました。
何でも、やりたいことがあったら挑戦するっていうのをやっていました。思い立ったことは何でも。ヒッチハイクはかなり印象に残ってるかな。大阪から東京までヒッチハイクしたんすよ。友達に会いに。あとは、ガスコンロ使える公園で料理して食べたり、雨の日は緑地公園でバーベキューしたり。友達とだったり一人だったり。一人バーベキューは結構落ち着くんすよ。うん。またやりたいです。思い出した。またやりたくなりました(笑)
やりたいことが出来るっていうのは、いいですね。
――大学を辞めて1年半好きなように過ごして、色んなことを考えたその時間ってどんな時間だったと思いますか?
大事な時間ですね。ちょっと長かったかもしれないですけど(笑)
無駄な時間のような感じもしますけど、まあ無駄ではなかったかな。それで発見できたこともある。今から頑張ればいいって。
――発見というのは、自分の中でのどんな発見?
まあ、なんだろう。発見というか、物事の見方?が変わった?かな。
最初の半年で、敷かれたレールを歩かなくて良いんだっていうのが分かった。ずっとそう言われてたのに、こどもの森なんてまさにそうなのに、実感していなかったんですよ。
とは言っても、王道だしなあ、みたいな。履歴書に書いたら、変に思われるとか色々思ったけど、ほんとそれってどうでもいいなって思ったのは半年後で。
半年後以降は、好きな事ずっとやってただけなんですけど(笑)
――その半年で、その気持ちに至ったのはどうしてだろう?
多分、大学辞めても、仕事してお金もらって、生きていけるって分かったからじゃないですか?大学辞めても、普通に仕事の面接受かったし。別に大学行かなくてもよくね?みたいな。
いつでも波に乗れるように
――様々な経験を経て、今のケイン君がいらっしゃるわけですが、これから大学卒業後はどのような進路をお考えですか?
一応、大学院には行きたいです。同じ学科でもう少し深堀するんですけど。今、地理データの勉強が楽しいなって。
GIS(地理情報システム)を使ったデータ解析ができるっていう。どの辺に人が集まって、それをどう上手く活用するかとか。病気が流行りやすい場所はどこで、その病気をどうやって解消するかとか。いろいろな使い方があるんです。それを学べるので、大学院に行きたいなって思っています。
――学びたいことがどんどん出てくる感じだね。今、ケイン君が大事にしていることは何でしょうか?
う~ん。全部大事なんですけど、一つ選ぶなら冷静さかな。
なんか、生きてて問題多いんですよ(笑)財布落としたとか。この前も飛行機欠航になったんですけど、そういう予期しないトラブルがあったとき周りの人、めっちゃ焦るんですけど焦ると余計に物忘れたり、状況が酷くなるんで。だからいつでも、焦らないことを最近大事にしています。余裕をもってね。確認してから何かをするっていう。
――ほんとそうですね、同感です。では、最後の質問です。これから、どんなふうに自分の人生をデザインしていきたいですか?
二つ以上のことは常にやりたいです。一つだけに集中しちゃうと、それがなくなってしまったとき、生きる術がなくなってしまう。二つあれば、片方がなくなっても、その間にまたもう一つ何かやるっていう。常に二つ以上何かやっていればいいなって。あと飽きるタイプなんで、平日はオフィスで働いて、土日はカフェで働くとか。昼は土木関係で働いて、夜は塾講師とか。そういう全く違う仕事を掛け持ちしてみたいです。とにかく色々やってみたいです。
結局多分あんまり深く考えてないんですよね。ただ何か面白そうなものがあったらやるっていうのを続けていて、今に至っている。計画も無いんですよ。ただ、大雑把にこうなったらいいなあみたいな。でも、いつでも波に乗れるように、準備はしています。
インタビューを終えて・・・
タイトルに「人生のサーファー」と付けさせて頂きました。
波は常に変化しています。穏やかな日もあれば、大波が突然襲ってくる日もある。そんなさまざまな波を見極めながら、恐れずに自分のタイミングでパドルを漕ぎ、チャンスを掴んで立ち上がる。こけても、また沖に戻ればいい。その繰り返しの中で、バランス感覚と勘、そして自分なりのスタイルが決まっていく。まさに、そういった人生を歩まれているケインさんにぴったりなことばだと思いました。ケインさんは、常に自分の心を大切にしながら、多くの人々と関わり、様々な経験を通して着実に成長されています。
お話を伺い、改めて『こどもの森』という土台の大切さを実感しました。
子どもが持つ生命を大切にし、
その子自身のエネルギーで自らの人生を切り拓いていくーーそれを親が信じる。
こどもの森で、保護者もその価値観(こどもの森が大切にしていること)を学び、子どもと共に成長していく―そんな場所がこどもの森なのだと思います。
息子がこどもの森学園中等部から入学し、現在は中3になりました。私自身も息子と共に成長できたことをうれしく思います。
『こどもの森』は知識の詰め込みではなく、自らの手で未来を創造する「生きる力」を育む、真の育ちの場として、存在意義を強く示しているのではないでしょうか。
今回、このプロジェクトに携わらせて頂いたことで、子どもの進路に対して不安だった思いが、楽しみに変化したように思います。
ケインさん、そして『こどもの森』を巣立っていった皆さん、この学園保護者の一人として、皆さんのことを心から応援しています。
(中学部保護者 東﨑啓美)