10月9日(金)の高学年クラス4・5コマ目に、「“好き”を“哲学”する」というテーマで、Manabeeメンバー4名による共育プログラムを実施させていただきました。
議論に議論を重ね、限られた時間の中でどうにか練り上げたプログラムで当日に臨んだわけですが、思い通りにはまったく進まなくてプログラム実施中は手汗と背中の冷や汗と額の脂汗が止まらなかったものの、振り返ってみれば学びに満ちた時間を体験することができました。
以下、プログラムづくりの経緯と実施当日の模様をご報告いたします。
<プログラムづくり開始>
2020年度のManabeeプログラムは7月から始まりました。自己肯定感、自己決定、対話、ESDという4つのテーマについて4回の講座で学んだ後に、9月6日(日)にいよいよ共育プログラムづくりがスタートです。
私たちA班は当初5名のチームでしたが、今年はCOVID-19の影響で1名は現地不参加、もう1名はプログラム自体への参加をキャンセルされたため、この日は参加できた残りの3名でプログラムづくりに着手しました。
「どんなプログラムを作るのか、ある程度は枠組みが決まっているのかな」などと気楽に構えていたら、そんなものはまるでなく、フリースタイルで好きにやってくださいとのことでした。これは手強そうです。とりあえず自己紹介もそこそこにアイデア出しを始めます。
そして、話し合う中で出てきたのが家について考えるという案でした。これはメンバーのTさんの発案で、なんでもTさんの自宅は窓の素材が一般的なアルミサッシではなく木製のサッシを使用されていて、断熱性などの機能面が大変優れているのだそうです。それを切り口に、家の素材について改めて考えてみるのはどうか。その方向で話し合いを進め、以下のように模造紙に書き出しました。
この日に決めたテーマは「地球にも自分にもやさしい家(窓)について考える」です。これは面白いプログラムになりそうだとメンバーの誰もが感じていました。
テーマは決まった、あとはプログラムの組み立てを考えるだけです。なにはともあれ形になりそうだと、夜に行われた懇親会での楽しいほろ酔い気分もあって、その日は枕を高くしてぐっすり眠りにつきました。
<迷走するプログラムづくり>
その後のミーティングはすべてZoomやTeamsを使ってオンラインで行いました。初回は9月11日(金)の21時から。現地には来られなかったYさんもこの日から参加され、ついにA班メンバー全員がそろってプログラムづくりを進めていきます。
しかし、ここでいきなり私たちは方向転換を迫られます。というのも、このミーティングまでの1週間弱でメンバー各自がそれぞれプログラムの内容について考えた結果、同じような結論にぶち当たったからでした。その結論とは、「2コマでは時間が足りない」ということです。
私たちがもともと考えていた「家について考える」というテーマは、素材や建築法といった前提知識が必要になるため、調べることが多くなってしまいます。1学期くらいかけてじっくり取り組むには良いテーマですが、2コマでは調べる時間が到底取れません。かといって、調べる時間を省略しようとして情報を与える形にしてしまうと、子どもたちの意見を誘導する恣意的なプログラムになる懸念があります。
当初の案はやむなく白紙にして、私たちA班の皆が子どもたちに伝えたいことは何かを改めて考えることにしました。
意見を出し合う中で見えてきたのは、子どもたちには自分が好きなことを大事にしてほしいとメンバー全員が共通して考えているということでした。そこで、テーマを「好きなこと
から未来について考える―自分の未来、世の中の未来」と再設定しました。そして、子どもたちが自分の好きなこと・好きなものについて気づいてもらうようなプログラムにしようと決めました。
しかし、ここでまたちゃぶ台がひっくり返されます。それはミーティングでサポーターのNさんが放った「こどもの森の子どもたちは普段から好きなことやってますよ」という一言でした。前述したとおり、私たちは「好きなことに気づく」というスタンスでプログラムづくりを進めようとしていました。でも、当の子どもたちは普段から好きなことについて考えて、実際に取り組んでさえいるのです。では今さらこんなプログラムをやる意味があるのか……。
話し合いは行き詰まり、それぞれが頭を抱え、いつの間にかアルコールが入り、ただのZoom飲み会と化す夜もありました。
<ついにプログラム完成>
実施したミーティングは計6回。私たちは悩みながら議論を重ねました。なぜ子どもたちに好きを大事にしてほしいんだろう。好きを大事にするってどうすることだろう。そもそも「好き」ってどういうことだろう。そしてひとつの思いつきに至ります。私たちが今考えているこれをそのままプログラムにすればいいのでは、と。
つまり、何かが好きってどういうことか、この答えの出ない問題について子どもたちと一緒に考えたいと思ったのです。
答えの出ない問題について考えるのは哲学の領域です。テーマは「“好き”を“哲学”する」に最終決定しました。このテーマに決まってからはプログラムの内容が比較的順調に決まっていきました。
ワーク形式で取り組んでもらうシートを用意したり、段取りを書いたタイムスケジュールも用意しました。
子どもに刺さりそうな流行を取り入れた素敵なポスターをCさんが描いてくださいました。
ディスカッションを中心にしたプログラム構成にしたため、展開が読めない不安はあったものの、ここまで準備しておけばどうにかなるだろうという計算でした。まあ、その目論見が当日には木っ端微塵にされるのですが。
<そしてプログラム当日>
迎えた当日。12名の子どもたちが参加してくれました。前半はグループでのワークとディスカッション、後半は全体でのディスカッションという構成です。
まず前半はくじ引きで3グループに分かれてもらいます。そして用意したワークシートに記入する作業をお願いしました。ですが、ここでさっそく想定外。この時間はひたすら黙々と好きなものをリストアップしてもらうつもりだったのに、おしゃべりしながら書く子が大半でした。私たち大人は黙って書くよう訓練されてきたからそうしているけど、人が集まったら話すほうが自然だよなと、いきなり気づかされました。
できるだけたくさんリストアップしてもらう想定だったのが、実際は枠をひとつずつ埋めたら終えてしまう子どもがほとんどだったのも考慮が不足していた部分でした。そのせいで時間が余ってしまいました。これはワークの設計ミスだったと言えます。ただ、余った時間でシートの余白に絵を描き込む子が多くいて、その絵を見るのが楽しかったのは嬉しい誤算でした。
休憩を挟んでの後半は全体でのディスカッションです。進行役のメンバーの問いかけに対して意見を出してもらい、あわよくば子どもたちだけでどんどん議論が転がっていくような展開になれば……と内心ほんのちょっとだけ期待していました。でも、そんなに都合良くはいきませんね。議論が途切れてしまうたびに、次にどんな問いかけを出そうか脳をフル回転させねばならない展開が続きました。
そうしている中で、このディスカッションの重要な着眼点になったと個人的に感じた発言がありました。好きじゃないけどやっていることがあるという子に理由を尋ねたところ、「好きじゃないけど楽しいから」と答えたのです。この感覚は他の子どもたちにも受け入れられたようで、しばらくはその切り口で議論が進みました。
この「好きじゃないけど楽しい」とはどういうことか突き詰めていければ、「“好き”ってどういうこと?」という本来の問いにたどり着けそう感触があったのですが、そこまでは到達できずにタイムオーバーとなりました。
<プログラムを終えて>
プログラム後の振り返りでは、メンバーの感想はそれぞれ異なっていました。想定が甘かった、もっとうまくやりたかったという反省の弁もあれば、それも含めて経験だし、やれることはすべてやったから後悔はないという声もありました。これまでまったく接点がなく、バックボーンも異なるメンバー4人ですから、感じたことに違いがあるのは当然です。
ただ、Manabeeプログラムでは、こうして異なる意見を受け入れ、納得できるまで話し合うという体験をずっと続けてきたように思います。普段は相手との立場や力関係を推し量り、率直な表現を避けてしまうこともありますが、それとは真逆の体験ができる時間は非常に貴重でした。
箕面こどもの森学園はこうした体験に満ちた素晴らしい学校なのだろうと感じられました。また、それを支えるプログラムを日々つくられているスタッフの皆さんのすごさを感じました。ありがとうございました。(HA)