こどもの森ですごした人たちは今・・・
こどもの森卒業生インタビュープロジェクト第 弾は、現在、大学1回生のいぶきさんにお話を伺いました。
*本人の希望で仮名にしてあります
*本記事は、卒業生の語りをなるべく忠実に伝えることを大切にしています。そのため、成長の途上にある姿や、まだ言葉になりきらない思いも含めて、等身大の今をそのまま受け止めながら記録しています。
いぶきさんプロフィール
- 2006年生まれ。大学1回生 (2025年8月現在)
- こどもの森学園在籍期間:中学1年生〜中学3年生まで
- 今の自分の生き方を表す言葉:やらない後悔よりやる後悔
――「やらない後悔よりやる後悔」というのは、とても前向きな言葉でいいですね。どのような経験から、そのように思うようになったのですか?
なぜその言葉を選んだかっていうと、大学受験する時に総合型選抜入試に出会いまして。そこで初めて、やらないよりかはやった方が自分のためにもなるのかなと。もちろんいいことばかりではないかもしれないけど、挑戦するのは自分のためになるのかなと思って、その言葉を大切にしてます。
――確かに、その方が納得感ありますよね。
そうですね。この言葉をこれからも大切にしていきたいなと思ってます。
――今は大学1回生ということで、どんな気持ちで日々を過ごしていますか。
まあ今は楽しくやっています。ちょうど慣れてきた感じですかね。一学期が終わるところで、ちょうど試験があったりするので、少し緊張はしていますけど。
(注:インタビューが行われたのは7月下旬なので、ちょうど大学の前期授業の試験の最中でした)
――確かに今はそれによって単位が取れるかとか、そういう時期ですね。それが終わったらもう心置きなく夏休みに入れますよね。
はい、さっぱりと。
――今は大学でどんなことを勉強してるんですか?
今は法律関係のことを勉強していて。というのも、将来警察になろうと思っているので、それに向けてその準備をしています。公務員試験の対策講座とか、将来役立ちそうな資格検定のための勉強を結構頑張ってやってます。
――忙しいですね。確かに警察官になる場合は、特に法律の分野は大事になってきますよね。
まあ、公務員試験はまだ先の話なんで、今は生活を楽しめたらいいなと思ってます。
自分の夢に向かって進路を選択すること
――こどもの森の中学部にいらしてたということで、卒業後はどのような進路を選択して、大学に入学したのか、経緯を教えていただけますか?
こどもの森を卒業した後はN高という通信制のなかでは、よく知られている高校に通ってました。N高を卒業後に今の大学の法学部に進学しています。
――法学部は人気だから倍率が高そうですね。さきほど、総合型選抜入試のことを言われていたんですけど、総合型選抜で入学したのですか?
そうですね。総合型選抜で合格しました。
――総合型選抜入試の対策もしながら、一般入試の対策もしていたんですか?
そうですね。総合型選抜の対策もしたんですけど、受からなかった時のために、一般入試や推薦入試に向けての勉強もしていました。
――入試の種類が増えているのもあって、いろいろと備えておかなきゃいけなかったんですね。やはり受験当初から警察官になろうと思って大学を選択したって感じですか?
はい、そうです。
――警察官になりたいって思ったのは、いつから思ってたんですか?
小学生の時からです。ただ、高校1、2年生ぐらいの時は、カメラマンだったりとか、動画編集者だったりもいいなと悩んでた時期があったんですけど、将来何がやりたいかってもう一度考えた時に、警察官になりたいっていう思いが頭の片隅にあって。将来なるんやったらやっぱ警察官かなあと思って、高校3年生の時に進路を決めました。
――確かに警察官って子どもの憧れの職業とか言われたりしますよね。その夢を思い出して、やってみようと思われたんですか?
そうですね。地域の安全を守りたかったっていうのと、地域の人たちとの触れ合いを大切にしたかったので、そういった仕事って何かなと考えて、そうすると警察官と消防士じゃないかなと思ったんです。ただ、消防士だったら、人との関わりがあるというイメージが、あまりないじゃないですか。それで、警察官だったら交番とかで人との関わりがちょっと広がるかなと思って警察官にしたっていうのもあります。
――困り事とかを聞いたり、地域の人たちと密着できる職業ではありますよね。今行ってる大学とかは、ここがいいなと思って決めた感じですか?それとも法律が学べる大学という専門分野で決められたんですか?
まず、今通っている大学にするかは正直迷ってました。高校1年生の時から、親からオープンキャンパスは行った方がいいよって言われて。高校1年生から、色々な大学に行ってどこがいいか悩んでいたんです。高2の夏の時に今の大学のオープンキャンパスに行って、他の大学とはまた違った魅力があるなと惹かれて決めた感じです。
――高校1年生の頃から、行きたい大学を真剣に探していたんですね。
今の大学は、気になる大学の中で雰囲気が一番自分的に合ってたので良かったんです。法学部を選んだ理由としては、警察官になるためには、やっぱり法律関係を学んどかないとダメかなと思ったという感じです。
――法学部って、実学的にみられるけど、けっこう哲学的なところもあって面白い学部ですよね。実際、入学してみていかがですか?
入学してみて、大変なこともあるんですけど、一番は自分の学びたかったことなので、結構楽しんで勉強はしています。
――よかったですね。やっぱり早めにいろいろ見に行って、大学の雰囲気とか、あとどういう勉強したいかって考えたことが生きてる感じですね。
そうですね。というのも、総合型選抜入試で何をしたいのかっていうのを一から考えてたので。何を勉強したいのかとか、目標とかを志望理由書に書き出していたので、勉強の仕方としては結構楽した感じではありました。
――事前に考えておくと、入学した後のミスマッチが起きなくていいのかもしれないですね。少し時を遡って、こどもの森を卒業した後にN高に行こうと思ったのは何が決め手だったんですか?
N高にした理由は、まずは塾の先生の勧めもあったんですけど、もう一つの決め手になったのが、こどもの森での学びが結構似ているな、と思って。発表の機会も多いし、自分のペースで勉強ができるというのが自分的にはいいなと思いました。N高にもいろんなコースがあるんですが、僕はキャンパスの方に週五で通ってました。毎日通学することで、わからなかったところを質問することができたのも大きな決め手でしたね。
――確かに、ずっと自分だけでやっていくのも大変ですよね。
まあ受験とか勉強とかいろいろ悩んでたので、いい選択だったのかなと思います。キャンパスに行くことができると、横との関わりもできますし、スタッフとの縦の関わりも広げられたかなと思いました。通信制高校も、本当にびっくりするくらい色んな種類の高校があって、ひとつの選択肢になっているなというのを感じています。
こどもの森に入学して
――こどもの森に入学したきっかけは何だったんですか?
父親の勧めがあったんです。父親は多様な学び方に興味があったみたいで、こどもの森に行くのはどうかということを言ってくれて。それで見学に行った時に、結構面白そうじゃんと感じたのがきっかけですね。
――お父様が多様な学び方に関心があったということですが、家族の間で話し合いみたいなのはありましたか?
うーん、僕はあまり知らないんですけど、親同士で話してたとは思います。母親は半々って感じで普通の学校に行かせたいけど、子どもの希望を尊重したいと思っていたとも思うので。賛成しつつも反対してたのかなーとは、今思うと感じています。
――いぶきさんの行きたいという気持ちが強かったんですね。
なんか他の学校とは違って、それぞれの目標がバラバラでいいなと思ったので、それも決め手でしたね。中学校に入る前に見学して、体験入学してという流れでした。あと、小学部でも中学部でも発表する機会が多いじゃないですか。他の学校は、自分で調べて発表するというのが少ないなと思って。それで、こどもの森に入学することにしました。
――確かに発表の機会はすごく多いですよね。
3ヶ月に1回は必ず発表するし、卒業プロジェクトもあります。自分で形作る卒業プロジェクトと普段の発表を並行して、一年通じてやらないといけなかったんで。特に中学3年の時は受験もあったので、結構大変でしたね。期末テストとか中間テストとかないかわりに、発表準備があったので、割と負荷はかかりました。ただ、そのおかげで、いろんな力が養えるので、それは良かったのかなと思ってます。
――こどもの森への入学を決める時に悩んだりしたことはありましたか?
入学を決めた時には特に悩んだりしたことはありませんでした。ただ、入学後に多少悩みはありました。勉強の面で、もちろん教えてくれるスタッフはいるんですけど、受験となった時に、他の人と比べて勉強量が少なかったので、ちょっと困って、どうしようと思ってた時期はありました。まあ正直、勉強しなかった自分が悪いんですけど。
――確かに自分で計画を立てて勉強していかなきゃいけないっていうのは、受験という、ひとつの目標がある時には大変なところもありますよね。
はい、大変でした。もちろんスタッフも助けてくれるんですけど、自分の才能が結構大きいな、というのは大変なところだったんですよね。それで悩んでたというのはあります。
――こどもの森で印象に残っている出来事とか、日常のエピソードはありますか?
記憶に残ってるのは1年生の時の韓国のガンジースクールへの研修旅行です。今でも、その記憶がこびりついていて。長い期間、外国の学校で交流する機会って他の学校を探してもあまりないじゃないですか。結構いい機会だったので、思い出に残っていますね。
――どんな交流があったんですか?
日本側からは、僕は空手をやってたので、空手のパフォーマンスだったりとか、型の突きとか蹴りの簡単な動作を教えたりとか。あとは日本の文化とか、学校の紹介の発表をしました。韓国側からは、韓国人の学生と授業し合いながら、互いに距離を縮めるという感じでした。
――海外の同じ世代の学生と交流できるというのは、強く印象に残ると思うんですけど、他にも何かありますか?
次に印象に残っているのは、発表をしたことですね。やっぱり、他の学校ではあまりできないようなことだと思うので。
――どういう発表が一番印象に残ってますか?
僕は中3の最後の発表で、台湾のことについて調べたことが記憶に残ってます。台湾の歴史とか文化とかそういうことだったり、台湾が親日になった理由のことを調べて発表したんですけども、結構調べやすかったっていうのと、中1からの経験が結構積み重なってたのでうまく発表できたという手応えがありました。「塵も積もれば山となる」という言葉があるように、何事も経験が必要なので。そういう意味では、他の人も嫌がらずにやってくれたらいいなと思ってます。将来に役立つと思います。たとえば、僕にとっては、発表の機会が多かったことは、最初に言ったように、総合型選抜入試でプレゼン発表があってそれに活かせたのかなと思ってます。
――社会に出た時も、プレゼンテーション能力って大事なので、その力が養われた感じですね。
そうですね。小さい時からやっとくと、そういう場に出ても、場慣れしているので、緊張もあまりしないと思います。
――今言っていた発表は、卒業プロジェクトになるんですか?
卒業プロジェクトとは違いますね。ワールドオリエンテーションです。
――卒業プロジェクトは何をしたんですか?
卒業プロジェクトは二つやってまして、卓球について調べました。最初は入学時から卒業まで、陸上のタイムはどれだけ早く走れるかというプロジェクトをやっていたんですけど、忙しかったというのと長続きしなかったというのが重なりあって、それはもうやめとこうってなって、次にちょっと興味があるものなんだろうって思って、その時に流行ってた卓球にしようと決めて卓球にしました。
――実際に卓球をするんですか?
結構練習はしましたね。その時他の人たちが卓球やってたので、その人たちと卓球の練習をしながら、どれだけ回転をかけれるかというのを試していました。ただ、個人的に印象に残っているのは、やっぱりガンジースクールへの研修旅行とワールドオリエンテーションの発表だと思います。その二つがかなり大きかったです。
自分の意志を尊重できる場としてのこどもの森
――これまでの自分にとって、生き方や進路を決める転機と思うような出来事はありますか?
うーん。なんだろう。大きな転機に繋がるかどうかはわかんないんですけど、やっぱり今に至るまで、今の自分になったのはやっぱ周りの助けがあったからなのかな、と思います。自分がこうやっていこうとか、こういう学校に行こうとか、そういうのを決められたのは、周りの人が結構サポートしてくれたからだと思うので。
――全部を1人だけで決めるってことは、なかなかできないですもんね。
そうですね。こどもの森だったりとか、N高にしろ、今の大学に決めたのも、先生とか親とか塾の先生だったりとかの助言があったからこそ、今の進路になったのかなと思ったりします。
――良きアドバイスをくれる人が周りにいたっていうのは、すごく大事ですよね。
そうですね。自分の決めたことに反対しなかった親も感謝ですし、アドバイスをくれた人にもありがたいなと思ってます。自分自身を尊重してもらってました。
――改めて振り返って、こどもの森での経験が今の自分にどのような影響を与えたと考えていますか?発表が大事だったということは、お話ししてくださったと思うんですけど。
まずは、こどもの森は、自分の意志を尊重できる場だと思ってて。今何を学びたいかとか、やりたいことを、やってみたらどう?という感じで進めてくれる学校だなと思ってます。だから、それがやっぱりすごく自分の人生に影響を与えたなって感じがしました。自分的には、それがあったからこそ、自分のやりたいことが決まったし、あと進学先とか興味があることを見つけられたので良かったなと思ってます。
――自分の意志を尊重してもらうのって大事ですよね。こどもの森にいた時にも、そんなふうに感じてましたか?それとも、また違ったふうに思ってましたか?行ってた時はとにかく忙しいなみたいな感じだったんでしょうか。
なんて言うんでしょう。周りにとらわれないところだなとは思ってました。だからこそ自分を発揮できたと思います。あとはルールとかも自分たちで決めることができて、最低限のことは守りつつ、それ以外は自由だよという感じだったので、のびのびできてよかったです。
――何のためにあるルールだろうとか、不思議に思わなくてすみますよね。ブラック校則みたいなものと違って。
確かにそれはすごく良いことだと思います。
――そんな風に、のびのびと自分の意志を尊重できる環境で過ごしてきて、今、いぶきさんは何を大事にしていますか?
今大切にしているのは、やっぱり1人では何もできないからこそ、周りとの関係性を大切にできたらいいなと思ってます。何事も1人では限界があるので、自分の持っている才能を生かしながら、みんなで役割分担をできるからこそ、ストレス溜めずに生きられるので、人との関わりは大切にした方がいいと考えています。
――社会人になると、さらにそういうのが大事になってくるので、今それを感じられてるのはすごくいいなっていうふうに思いました。これからどんな風に自分の人生をデザインしていきたいですか?
まず、大学生活で見ると、4年間しかないので、社会で困らないような資格とか経験を身につけられたらいいなと思ってます。社会に出た後は、今まで親に迷惑かけたぶん、親孝行をしつつ、周りを助けられるような人になりたいので。日頃から人を手助けしたいと思っています。
――きっとできると思います。お話ししてて、人とコミュニケーションとるのすごく好きなんだろうな、と思って。
はい、かなり好きなんです。
――対話の時間がいっぱいある、こどもの森は向いていたんだろうな、と思います。 他にこれは言っておきたいこととか何かありますか?
なんでしょうね。こどもの森に通っている子どもたちに言いたいのは、やっぱり人生一度きりなんで、今を大切に生きてくださいっていうのは一番伝えたいことですね。自分の経験としては、他の人とはまた違った進路を歩んだからこそ、大変だったこともあるので。
――どういうところが大変だったんですか?
やっぱり、他のいわゆる一般的な学校とかだったら、与えられたことをこなしておけば身につくものもあったりするけど、そういうわけじゃないということですかね。何事も与えられてるわけじゃないので、自分で見つけないとダメだよっていうのを、それを大切にしてほしいですね。
――ありがとうございます。卒業生の実感がこもったメッセージをありがとうございました。
インタビューを終えて・・・
卒業生インタビューを担当したのは2回目ですが、今回、いぶきさんにお話をうかがって、こどもの森の卒業生たちは、人とコミュニケーションを取るのが得意だったり、社会に役に立ちたいという思いを持っている方が多いと感じました。いぶきさんは、とても穏やかで、「人の手助けをしたい」という自分の夢に向かって、何をしたらいいのかをしっかりと理解して進路を選択していることが印象的でした。いぶきさんは、こどもの森のことを「自分の意志を尊重できる場」と表現していましたが、そういう環境で育った子どもたちは、自然と人を大切にできるようになるのではないでしょうか。
実際、こどもの森では、「自分も人も大切に」ということを第一に民主的な対話を進めています。また、中学部になると、外国への研修旅行を通して国際交流をする機会に恵まれるということも特色のひとつだと思います。韓国への研修旅行のことを生き生きと話すいぶきさんを見て、とても良い経験だったのだなと感じました。
いぶきさん、大学の試験期間で忙しい中、実りの多いお話を聞かせていただき、ありがとうございました!(S.H)