こどもの森ですごした人たちは今・・・
こどもの森卒業生インタビュープロジェクト第2弾は現在大学生のさくらさんです。
さくらさんは今ハワイの大学に通いながら、イタリアでの交換留学を終えたばかり。現在は夏休み中でポルトガルに滞在中のさくらさんにお話を伺いました。
さくらさんプロフィール
- 2003年生まれ、22歳。ハワイ大学 (美術専攻) 3年生(2025年6月現在)
- こどもの森在籍期間:小3〜中3まで(2011-2018) *中学部一期生
- 今の自分を生き方を表す言葉:「世界を巡る暮らし」
「世界を巡る暮らし」から学ぶ、今のわたし
ーーでは、まずは簡単に自己紹介してもらってもいいですか?
私はこどもの森に小学三年生から中学三年生まで通って、その後15歳でマレーシアにあるエプソム(エプソムカレッジ)っていうイギリスの学校に行きました。コロナで日本に戻ってきたあともオンラインで続けてたんですけど、カリキュラムの前半が終わったところでハワイ島の高校に編入して、そこで卒業しました。その後はオアフ島のハワイ大学に進学して美術を勉強してます。大学では、絵を描いたり、フィルム写真やったり、陶芸も高校のときから続けてて。交換留学で行ったイタリアでは、ファッションの写真の授業とか、料理のクラスもあって単位取れたり。いろんなジャンルでアートを学んでるっていう感じです。で、今はその交換留学が5月に終わって、ポルトガルに住んでる叔父とおばのところに夏休みで来てます。
ーー大学卒業後はどうしたいなとか考えてますか?
大学を卒業した後は、アメリカで一年間働けるビザがもらえるんで、そのビザでとりあえず働こうかなって思ってます。
ーー大学生活、あと一年っていうところで、今の生活の中で、どんな気持ちで日々を過ごしてるかっていうのを、ちょっと聞かせてもらえますか?
イタリアに行ったときは、一人で海外の知らない場所で、周りに知り合いもいなくて。1月から行ってたんですけど、その時は不安で。でも今6月でやっとその生活が終わって、夏休み、ポルトガルでのんびり過ごせています。
ヨーロッパにいる間にいろんな国にも行って、毎日がすごく刺激的で。自分の「当たり前」が、「あ、これって当たり前じゃないんだな」って、すごく世界が広く感じた半年間でした。どういうふうに生活してもいいんだなって、自分の捉え方次第で自由に生きられるんだな、みたいなのを実感した期間だったので。気持ちとしては、「何にでもなれるかも」「やりたいこと全部やろう」みたいな、すごくポジティブな感じです。
例えば、イタリアって言葉も違うし、食べ物も違うし。私が日本食で毎日ご飯と味噌汁を食べるように、こっちの人はパスタを毎日食べる、みたいな(笑)。 あと、横にいたアメリカから来た子に「日本人を初めて見た」って言われて。え、日本人を初めて見る?そういうこともあるんだ!って。自分にとっては日本人であることが当たり前なのに、日本人を初めて見るって、どういう感覚なんだろう?みたいな。
ーー大学生活、あと一年っていうところで、今の生活の中で、どんな気持ちで日々を過ごしてるかっていうのを、ちょっと聞かせてもらえますか?
「世界を巡る暮らし」みたいな感じかな。
ーーそこにはどんな思いがこもってますか?
なんか、やっぱり可能性がすごくあるんだなっていうことを実感して。自分の可能性っていうよりも、世界ってこんなに広かったんだってことを毎日毎日感じるみたいな。きっとそれが、自分の価値観が広がってるってことかな。やっぱり、なんか、こどもの森で学んだことを、もっともっと延長して学んでる、みたいな感じかもしれません。
「こどもの森」での学び
ーー今「こどもの森の学びを延長して学んでる」って言ってたけど、あらためてふりかえって、こどもの森での経験って、自分にどんな影響を与えてるなって思いますか?
一番は、こどもの森では話し合いが多かったことですね。話し合いで人に話すと同時に、やっぱり自分に質問することが多いなって感じてて。たとえば、「こういうことが嫌だな」とか、「こういう問題を解決したいな」ってなった時に、「なんで嫌なんだろう?」っていうことを、人に話すためにまず自分で考える時間があるんですよね。それが今でも習慣づいてて。何かやりたいなって思った時に、「なんでやりたいんだろう?」って、自分を掘り下げるというか、自分を知る練習をたくさんしてたんじゃないかなって思ってます。
ーー当時の話し合いの中で印象に残っているものありますか?
小学生の時、修学旅行も全部、自分たちで提案して自分たちで決めてたんですよね。修学旅行とか。やっぱり、時には話が全然かみ合わなかったり、みんなの意見が食い違ったりして、そういう時にグループとしてどうやってまとまっていくのかっていう場面に何度も直面して。そこから、いろんな人が意見を出し合って、うまくおさめる、というか。みんな個性が違うけど、それぞれの意見を活かして一つにまとめていくみたいな。そういう経験は、小学部の修学旅行を決める時とか企画を考える時にすごく多かったですね。
ーー多数決もしないしね。決まるまで話し合ってるもんね(※箕面こどもの森学園では物事を決める時、多数決をとらないでとことん話し合って納得する答えを探していきます)
それが、すごく深い作業なんだけど、結果一番いい形になったりするんですよね。
ーー修学旅行とか研修旅行で、印象に残ってるのってある?
中学部の時に、研修旅行で台湾に10日間行ったんですが、その旅行では、たとえば会計担当の人がちょっとごちゃってなっちゃったりとか、3日くらい一緒に過ごしてるうちにみんなイライラし始めたりとか。そういう時に、「どうサポートし合うか?」みたいな話し合いが印象に残ってますね。
ーーたくさん話し合いをしていた こどもの森、今振り返れば「ああ、あれは大事だったな〜」って思うかもだけど、当時はどう感じてましたか?
やっぱり…なんか「めんどくさい作業をいっぱいやる」、積み重ねの練習、みたいな感じでしたね。みんなで話し合って何かを作り上げるのは楽しい。けど、すごく時間もかかるし、うまくいかない時には「めんどくさいな」って思っちゃって、逃げちゃう時もあったりして。でも最終的には、「納得いくまで話し合う」っていう感じでした。
「めんどうくさい」で言えば、一週間ごとの振り返りも、全部文章で書いて、来週の計画を立てたりとか。(※箕面こどもの森学園では、毎週、子どもたちが自分で学習計画を立て、一週間の終わりにふりかえりをします)
すごいめんどくさい作業なんですよ。でも、それがあるからこそ、自分がどうしてきたかが目に見えて分かる。最後になって振り返った時に、「やっててよかったな」って思えることがいっぱいあります。
あと、W.O(※ W.O=ワールドオリエンテーション。中学部で取り組む総合学習の一つ)で、レポートを初めて書いたときとか。自分と向き合って、文章にしていく作業。たとえば、「自分の好きなこと」っていうテーマの時は「あれ? 自分の好きなことってなんだろう?」って、すごく哲学的に考えるような。それをスタッフに見せて、「こことここの文章、つながりが弱いから、こういう風にしたら?」ってアドバイスもらって。最初は「えっ、わかんない。やったことないからできない」って思ってたけど、やりながら学んでいく感じでした。でも、それが今に影響してて。アメリカの学校って、すごくプレゼンとかレポートが重視されてて、逆にテストはあんまり重要視されてなかったりするんですよ。だから、あの土台があったからこそ、流れがつかめてるというか。こどもの森でそういうクリエイティブな学び方とか、発想に触れてなかったら、きっと今すごくしんどかっただろうなって思います。
ーー他にこどもの森ですごく印象に残ってることとかありますか?日常のエピソードとか。イベントとか
私、すごい好きだったのが「しぜん」(※箕面こどもの森学園では、自然の中で学習する「しぜん」という時間があります)
なんか…今パッて思い出したんですけど、みんなで自宅から野菜を一袋持っていって、それを大きなお鍋に入れて、野菜スープを作るとか。たとえば、木の実を切って何か」作ったりとか。ほんとに、何もないところから自分たちでクリエイトする、みたいな。「かくれんぼ、じゃあ木のところでそれしよう」とか。子どもながらの発想がそういうところにすごく出てたんじゃないかなって。
あと、体育祭とかもみんなで作っていくっていう感じで。保護者もスタッフもみんなが一体になって。すごく楽しかったなっていうイベントがいっぱいありました。そういえば、夏祭りでマッサージ屋とかもやったことあるんですよ。子どもがマッサージするっていう。それこそ、普通だったらたぶん「いや、それはないです」って言われるようなことを、聞いて、実際させてくれた場所だなって、めっちゃ思いますね。
こどもの森との出会い
ーー小学校3年生の時、どういう経緯でこどもの森に出会って入学されたんですか?
幼稚園の時に、両親がこどもの森も含めていろんなフリースクールを体験とか見学に行っていて。でも、そのときはお友達が「一緒の学校に行きたい」って言って、自分も公立に行くことを決めたんです。それで公立学校に行ったんですけど、小学一年生の時は、あんまり学校に行けなくて。母親と一緒に学校へ行って、母も授業受けてる、みたいな。その後、引っ越して、小学二年生でまた違う小学校に行って。でも、そこでもあんまり学校が好きじゃなくて。「なんでみんな同じじゃなきゃいけないんだろう?」ってところに、すごい疑問を持っていて。覚えてるのが、トイレに行きたい時に、なんで先生にいちいち「トイレに行きたいです」って言って許可をもらわなきゃいけないんだろう?飲み物が飲みたい時に、なんで飲めないんだろう?とか。そういう、小さな“ルール”とされているものに対して、「なんでそれはダメなんだろう?」ってことがたくさんありすぎて。小学生ながらに、生きづらかったんだと思うんですね。その時に、「あ、前に面白そうな学校、見せてもらったなぁ」って思い出して。小学三年生の時に、こどもの森に体験に行って、それで「ここ行きたい!」みたいな感じで。
ーーこどもの森に体験に行って「ここ行きたい!」って思った一番のポイントは何だった?
私が行った時は、年上のお姉ちゃんたちが多かったんですね。小学部高学年とか。すごい笑顔で受け入れてくれて、迎え入れてくれて。家族じゃないけど、家族みたいな。なんか、もっと人数が少なかったんですよ。私が行ってたときは。ちょっと“ホーム”みたいな。安心できるなって思えたんですよ。スタッフ(※ 箕面こどもの森学園では職員は全員、先生ではなく「スタッフ」)とも、それこそ友達みたいに、ずっと話してたなっていう印象です。一人の人として、受け入れてくれてた。否定はされなかったなーって思ってます。いいところを引き延ばしてくれた学校だなって、思ってます。
進路の転機と、これからの自分
ーーこどもの森の中学部を卒業後、高校をマレーシアにしようっていうのは、それはどういうきっかけで決めたんですか?
中学三年生の時に、海外の学校もちょくちょく見に行ってたんですけど。 でも、実は私、日本のインターナショナルスクールに行きたくて、千里国際(関西学院千里国際高等部)を受験したんですけど、落ちちゃって。千里国際にしか行きたくないって思ってたから滑り止めも受けてなくて。「4月から行く学校がない・・・」って、絶望しました。「じゃあ、どうする」って。そこから海外の学校を視野に入れました。マレーシアの他に、スイスやハワイの学校も見たんですけど、スイスは日本人だけの学校だったし、ハワイは女子高で。やっぱり外国の生徒と共学で学びたいと思って、マレーシアに決めました。英語の試験は全然わからなかったけど、なぜか受かって。それで、マレーシアのエプソムに入学しました。
ーーその後に、ハワイの大学を決めたのは、やっぱり美術がきっかけだったんですか?
マレーシアの後、実は次にハワイの高校に行ったんですよ。で、体験してから大学を決めました。 大学を決めるときも、実はあまり「大学に行きたい!」って強く思ってなかったんです。 中学生の頃はむしろ、「別に大学なんて行きたくない」って思ってました。でも、学び始めたら、「大学ってすごい。もっと自分の可能性が広がる場所なんだな」って知って。 で、美術が好きだから、美術で探せるところ……ってなって、シアトルとハワイの学校を受験しました。でも、シアトルの友達が「シアトルは寒いよ~」って(笑)。で、「寒いのヤだな……じゃあハワイにしようかな」って決めました(笑)。
ーー今までの人生を振り返ってみて、「あれが転機だったな」とか「ターニングポイントだったな」って思う出来事ってありますか?
やっぱり一番最初は、こどもの森に入った時ですね。小学三年生のあの時、本当に……人生がガラッと変わった瞬間。それと、中三の受験に落ちた日。 あれが人生で一番つらかったけど、 結果としては、一番いい方向に連れて行ってくれたなって思います。
ーー中三の時、さっき「絶望した」って言ってたけど、そこから人生をグッと好転させた原動力って、何だったと思いますか?
やっぱり、起きたことに対して、私なりに多分、全力だったんですね。 「もっとこうしておけばよかった」とかじゃなくて、「自分が頑張れる範囲で頑張った結果がこれだった」みたいな。 もう、どうしようもなく変えられない現実が来た、って感じで。理解の選択肢がなかったというか、受け入れるしかなかったんですよね。だから、落ち込んでても仕方ない。「他の方法があるはずだ」って信じて、自分を行動させるしかなかった。ある意味、ちょっと諦めたところが逆に良かったのかも。 「落ちたんだから、それはそれで受け入れて、じゃあ次何ができるか考えよう」って切り替えられたのかなって思います。
ーーさくらちゃんにとってこどもの森ってどんな存在だったかって、あらためて言葉にするとどんな存在でした?
私の教育のベースは全部こどもの森で培ったと思ってるので。海外に行く選択をしたことも。こどもの森に行くまでは自分の中で全然自信がなかったんです。小学校の時とか、その時は身長も小さくて、3月生まれで。人より劣ってるって感覚がすごくあったので。「 できない」っていろいろ体験したけど、それができなくてもいいんだよ、みたいな。自分には自分の才能があるんだよ、みたいな感じで、できないことを無理にやりなさいって一切押し付けられなかった感じがして、すごく寄り添ってもらったなぁって。そういう寄り添いがあって、本当に助けられた場所だなと思っています。
ーー今、さくらちゃんが一番大事にしていることってどんなことですか?
私が今大事にしてることは、自分の考えを一切否定しないっていうことです。どういうことかというと、日常生活でいろんな頭の中の声ってあるじゃないですか。 そういうのも、例えば「この人嫌だな」とか「この状況すごく嫌だな」って思った時に、その自分も受け入れてあげよう、自分のことを好きでいよう、みたいな感じですかね。
ーーでは、これからの人生、どんな風にデザインしていきたいですか?
こどもの森に入った時に「生きると学ぶをデザインする」っていうのを聞いて、それが心に刺さって、今でも大事にしていることです。これからもっと自分を表現して、たくさん学ばせてもらった期間が長かったからこそ、次はもっと与えられる人になりたいと思っていて、それを形に残せたらいいなって思ってます。それが言葉でもいいし、写真でも、自分の好きなプラットフォームやアートでも、人に届けられる存在になりたいなっていうのが今の思いです。
ーー何を表現して何を一番与えたいですか?
やっぱり感性とか、人とは違う部分。今まではそこが自信がなかった部分でもあったんですね。できないことも多かったから。例えば、大学で数学の勉強とかは得意じゃなくて、そこを否定してた部分を肯定できるくらいの、自分の持っているアーティスティックな部分。自分のありのままを愛することってこんなに楽しいんだよ、って伝えられたらなと思っています。
ーー他、こどもの森のことでまだ語り足りない部分とかありますか?
小学部の時、悩んでたことが多かったですね。人間関係もすごく距離が近いし、こどもの森は。選べる友達も少なくて、限られた中でどううまくやっていくかっていうのがすごく難しくて。 でもそれがあったからこそ、今どんな人が来ても受け入れられるというか。みんないいところがあるから、その長所を伸ばしていくことが大事なんだなと思って。できないところは助け合って、できない部分を助け合うってことをこどもの森で学んだなって。それぞれ長所があるのに、公立はみんな同じじゃないといけないからっていう作業をたくさんさせられるけど、そうじゃなくて、長所を伸ばして、一人一人違っていいんじゃない?っていう考えをすごくこどもの森で学びました。
ーー今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです、本当に。
私もこうやって話す機会をもらえてすごく嬉しかったです。なかなかこういう保護者の方からインタビューされる機会ってないので。私はこどもの森の教育がすごくいいなと思っているので、そう感じる保護者の方がたくさん増えたらいいなと思います。
インタビューを終えて・・・
私は、自分の子ども二人がこどもの森の小学部・中学部に通う保護者であり、現在はコクレオの森の理事を務めています。
こどもの森では、「自己肯定感」「自己決定」「対話」「ESD」という、Manabee*でも提示されている4つのエッセンスに基づいた、とても本質的な学びが実践されています。ただ、その成果はテストの点数のように目に見えるものではなく、社会に出たときにどう活きていくのかは、なかなか実感しにくいのが正直なところです。
だからこそ、「卒業生が今、何を感じ、どんな道を歩んでいるのか」を直接聞けるこのプロジェクトに、ぜひ参加したいと思いました。
今回インタビューしたさくらさんは、本当に素敵な大人に育っていて、こどもの森での学びを見事に言葉にし、それが今の自分にどうつながっているのかを、生き生きと語ってくれました。
私自身も、保護者としては子どもたちの中のこの学びの芽をどう育てていくか、理事としてはこの学びの場をどう広げていくかを、これからも考え続けていきたいと思います。
さくらさん、本当にありがとうございました。
(*Manabee:学び場コーディネーター育成プログラム https://cokreono-mori.com/otonanomori/manabee.html)