【卒業生インタビュー】⑤ 自分の「好き」を誰かの幸せに〜大阪芸術大学生のゆうとさん

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こどもの森ですごした人たちは今・・・

5月に始動したこどもの森卒業生インタビュープロジェクト、第5弾の今回は、現在大阪芸術大学で学んでいるゆうとさんにお話を伺いました。

*本記事は、卒業生の語りをなるべく忠実に伝えることを大切にしています。そのため、成長の途上にある姿や、まだ言葉になりきらない思いも含めて、等身大の今をそのまま受け止めながら記録しています。

ゆうとさんプロフィール

  • 2006年生まれ、19歳。大阪芸術大学2回生(2025年6月現在)
  • こどもの森学園在籍期間:小5~中1まで(2019~2021)
  • 今の自分の生き方を表す言葉:「自己主張」

こどもの森を離れて、進路を決めるまで

――今の自分の生き方を一言で言い表すとどんな感じですか?

自己主張。今パッと思いついただけですけど。

――(ドレッドヘアにガラスのアクセサリーがついている)髪についているガラスがすごい綺麗なの、キラキラして。体全体でゆうとくんの存在が主張されてて素敵と思います。

嬉しいです、これ褒められたら。寝たら(ガラスが首にあたって)こことか痛くて、髪洗うのも1時間くらいはかかったりするんですけど(笑)。

——今大阪芸大の2回生ということですけど、何学科ですか?

デザイン学科の方に行かしてもらってます。デザインの中でもプロダクトデザインなんですが、大学の中でそこが一番忙しいんです。週6で大学に行って、今日は2限だけなんですけど、それから後はずっと制作するみたいな。なんか大学が家みたいな。唯一の休みの日曜日も結構家でデッサンしたりとか。ほぼ毎日大学で制作に浸ってる。自分で自主的にやってるのと、大学の課題もあるんですけど。大学の課題やったら、今スツールを、自分のコンセプトとか決めて作るみたいな。照明作ったり。あとはアドビのIllustratorを使ったり。

——とっても忙しくされていると思うんですけど、気持ち的にはどういう風に過ごしておられますか?

気持ちは、自分自身は結構好きなことやってたらなんかまあなんか楽しいなって思うタイプなんで。勉強とかずっとこうやっててもなんか苦痛やなと思うけど、デザインとか、何か自分の好きなこと考えてる時はまあ楽しいんで。長くてちょっとしんどい時もあるけど、やっぱその好きのマインドで、まだやれてるかなみたいな。あとはやっぱ、友達もいるんで、友達とちょっと話したりするだけでも気持ち的にはリフレッシュになったりとかするんで。好きっていう気持ちがコアにあるから、多少忙しくてもなんとかこういけるかなっていう。

——すごいいい表情でお話しされてるから、本当に好きなんだなっていうのがにじみ出てきてるような気がします。ところで、こどもの森を出られた後のことをちょっと伺いたいなと思います。中1で他の中学校に行かれた後、芸大のデザイン学科に行くまでのプロセスで、どういうことがあってそういう進路選択にいたったのか、っていうのを聞かせていただけたらと思います。

親とは私立(中学校)に行こうみたいな話はこどもの森におる時にしてたんです。ゲームが好きでプログラミングにずっと興味があったので情報系の高校とか、あと魚も好きやったんで海洋高校とか、めちゃくちゃ迷ってたんですけど、僕が行きたい高校がどっちも公立でして、こどもの森に行ってたらまあ公立(高校進学)っていうのは選択肢から省かれるじゃないですか。だからやっぱり公立(高校)に行くんやったら、進学準備も視野入れとかなあかんなっていうので、2年生から公立の中学に行くっていう選択をしました。

――なるほど。その問題は今でも大きいですね。進学となればやっぱり選択肢はだいぶ少ないかな……

そこはあるかな、と。

お母さんのひとことと芸大進学の決断

――ではその公立の中学校に行った後、デザインに興味を持つまでにはどういった経緯があったんですか?

中学の時は一所懸命勉強、勉強ってしてて、大阪の公立の情報系の高校に入学してからも、いろいろ趣味があって。絵描くのはずっと好きだったんですよ。あとはなんか友達の趣味とかも自分の趣味になったり。趣味多いんですよ(笑)。あ、これ(立ち上がって水槽の前にカメラを移動させて)これ見えてないかな、サメなんですよ。生き物が好きっていうのもまだ続いてて。いろんな「好きなこと」を見つけるっていうのが好きやったんで。部活も水泳部と美術部に入ってまして。そして美術部の人が芸大に行くことになって、絵描くのも楽しいなって、ちょっとそっから本格的に(絵に)のめり込んでいって。進路相談みたいな時に親とめちゃくちゃ話して、ある程度勉強はしてたんでその結構賢いところに入れるかもね、みたいな話はあったんですけど、お母さんと話しててたら「自分が今やりたいことを全力で学べる大学に行ったほうが、偏差値とか抜きにしていいんじゃないの」っていうのを言われて。

——その言葉をもらった時にどう感じました?

いやなんか普通に親からしたら、多分いいところ(大学)入って、安定した企業に入って、みたいなのが理想だと思ってたんで、そう言ってもらって、好きなことをやらせてくれんねや!ていうのでめっちゃ嬉しくて。じゃあ思い切って芸大行こうかな、みたいな。普通に嬉しかったですね。

こどもの森での日々

——すごい素敵な関係だなと思います。なかなか言えることじゃないですよね。少し時代を遡って、こどもの森に入学した時のお話を伺いたいんですけれども。

僕が(公立小学校で)ちょっと揉め事があったり、授業中やのにずっと本読んでたり、なんか結構ちょっと違うベクトルでの「問題児」みたいなんでして、親も結構しびれきらしてて。親が校長先生とかとも結構話したりするぐらいの。それで学校に行きたくないって言ってた時期があって、勉強も嫌やし。やりたいことだけやっときたいみたいな、美術の授業だけやりたいみたいな、めっちゃわがままな子で。それで、好きなことを伸ばせる方がこの子には向いてるんかなって親は思ったらしくて、その時にネットで調べて出てきたのがこどもの森だったらしいです。そのまま体験入学に行って、めちゃくちゃいいかもって。

——体験で良かった印象はありますか?

めちゃくちゃあります。人がめっちゃ温かかったっていう印象があって。こどもの森って「先生と生徒」っていうのがないじゃないですか。そうじゃなくて、スタッフがめちゃくちゃ親密に関わってくれてるっていうのが自分の中では嬉しくて。公立の時は業務的な話がずっとずっと言われて「めんどくさいな」って感じだったんですけど。(こどもの森では)ちゃんと「人と人」で話してくれてるっていうのが心地よかった。あとはシンプルに大半を好きなことに使えるから。やりたいことを伸ばせるっていうか、自分の好きなことをどんどんできるようになってくるっていうのが楽しくて。

——入学を決めたのは親御さんが背中を押した感じですか?

親的に言ったら学校に行かないっていうのが一番怖いっていうか、先が心配だって思っていたのを後で高校生の時に聞いて。だから、勉強とかは少なかったとしても自分の好きなことができる場所に行くっていうだけでも絶対そっちの方がいい、いやいや学校に行くよりは楽しんで行ってほしいかな、みたいな感じ。多分若干「しょうがない」って気持ちはあったらしいんですけど。

——「しょうがない」っていうのは、こどもの森がいわゆる「普通の学校」じゃないからしょうがなくっていう感じなのかしら?

お金面もそうですし。あとはお母さんお父さんにとってはやっぱり公立の学校に行って普通の大学行って就職、みたいな、その一連の流れが当たり前って感じのところがあると思うんで。

――親御さんの中にそういう葛藤があったんですね。

でもそういう気持ちを持ちつつも(こどもの森への)入学を勧めてくれたというのを後で知って、ちょっとなんか親との信頼関係というか、「こんなに思ってもらってたんだ」みたいな発見があるのかなって思います。

——こどもの森に通っていた3年間で何か印象に残っている出来事とか、スタッフさんのこととか、印象に残っていることがあれば教えてもらえますか?

スタッフさんやったらまるちゃん(中学部スタッフ)が好きやって、もうなんか友達みたいな、(まるちゃんの)弟みたいな感じで。マジであの人は、マジで結構僕の支えになってた。

あとは、中学部の時って海外研修がありますよね。(自分は)日本にずっといて海外は行ったことなかったんで、海外に行ってより視野が広がったっていうか。自分ってそんなに何も才能ないし、インターネットとかって結構裕福な人らがバーって出るじゃないですか、めっちゃ楽しいです、みたいな。でも海外を見てもっと視野広がったっていうか。言い方がちょっとあれですけど、自分よりもしんどい思いしてる人たちもいるっていうのを肌で感じる機会になったし。なんかいろんな意味でめちゃくちゃいい経験になった。

研修旅行はフィリピン行ったんですよ。マニラとか都市部と、あとネグロス島ってとこに行ったんですけど、都市部は普通にもうわさわさして、なんか普通に観光みたいな感じで楽しかったんですけど、ネグロス島っていうとこに行ったら、やっぱ地域感が出るっていうか。行ったら住宅街っていうか、現地の人が素で過ごしてるところに行ったんで、都市部よりそっちの方が印象めっちゃ残ってて、貧富の差っていうか…。そういうのも普通の公立行ってたら絶対味わえんところを感じれたなって。

転機になった出来事と将来について

——海外のリアルで厳しいところも見られた研修だったんですね。そのように色々なことに興味を持ち続けてきてこられた中で、これまでの生き方とか進路を決める転機になったことがもしあれば教えてください。

中学生の時は頑張ってたんですけど、高校の時って結構怠惰だったっていうか、結構怠けてて、親の迷惑になるようなことも……。ちょっと遅めの反抗期みたいな感じな時期であったんですけど。それでお母さんが泣いて「こんなはずじゃなかった」みたいな感じのことを言ってた時に「ハッ」ってなって。こんなに自分のためにいろいろやってくれてるのに、こんな思いさせちゃって申し訳ないっていうか、「自分何してんねやろう」ってなって。その時にもう本当に将来に向けて頑張ろう、親孝行したいっていう気持ちが出てきて、頑張ろうって思うきっかけになったですね。そこからはもう本当に、芸術大学で実習とかも結構して、まぁこんなこんな“なり”やからお母さんから「ほんまに頑張ってんの?」みたいに言われたりするけど。でも最近、(就活で)メーカーのインターンに行ってきまして。

——バイクとか車の?

はい。東京まで行ってインターンしたりとか。今度も同業別企業もインターンが決まりまして。バイクも車も好きで、あとはギターとかもやってて、その企業やったら楽器もあるから、インターン行ってみようかなっていう。こういう行動力がついたのは多分こどもの森に行ってたっていうのはあるよなって親と話したりしますね。

——こどもの森のどういうところがその行動力につながっているのかな?

まず、全校集会とかで結構司会とかやってたりしてて、ああいうところで発言する力っていうのはめちゃくちゃ力がついたなっていうのはあります。今大学生になって、プロダクトデザインの課題を教授に向けて発表する機会がめちゃくちゃあるんですけど、(こどもの森での経験が役立っていることを)めちゃくちゃ今痛感してて。そういうところは(テストの点数のような)数字じゃ現れないじゃないですか。だから高校の時はあんま感じなかったんですけど。大学生になって、発表したり、人前に出れる力がついたなっていうのとかがあります。

あとは、結構今も昔もコミュ障ではあるんですけど、なんかこどもの森で結構みんなから話しかけてもらったりとか、あの空気感、なんか言葉にするのはちょっと難しいですけど、去年夏祭りとかで(こどもの森に)行ったりしたんですけど、その時も「おかえり」、「久しぶり、ゆうと」みたいな感じで言ってくれるあの感じ。こどもの森に来たのは、人と揉めて(公立の)学校行きたくなくなったっていう理由もあったので、だから、ああいう場所に居れたからこそやっぱ人と話すのが好きになったし。あの空気感が、好きだっていうのがあったんで、自分の中では。

——こどもの森での経験がご自分の人生に与えた影響っていうのは、今おっしゃってくれたような経験もそうだと思うんですけれども、それ以外に何かありますか?

地元の中学に戻った時に感じたのが、みんなに似たような子やな、みたいな感じで。こどもの森って結構いろんな子がいるじゃないですか。こういうのにずば抜けてたり、こういうとこめっちゃ変わってたりとか、いろんな人がおったんで、自分の「好き」を見つける機会にめちゃくちゃなったなと思ってて。プログラミングとか魚とかもこども森の影響ですし、ギターも、佐野っち(現校長)がやってるのを見てたから、それで「やりたいなぁ」って思ったりとか。

多彩っていうか、いろんな感性持ってる人に会えるから、自分の「好き」を見つけれる場所としてめちゃめちゃいい場所とおもってて。見つけた後も、「プロジェクト」とかで自分でそこから(「好き」を深めるように)行動できたりもする。「プロジェクト」の時間っていろんな子がいろんなことしてるじゃないですか。それを見てるだけでも楽しかったりして、「そんなんしてるんや、面白そう!」みたいに、自分の幅が広がったっていうのがあります。…あれ、質問何でしたっけ?(笑)

自分の「好き」を誰かの幸せに

——こどもの森の影響ってことで、今お話してくれたみたいに、「好き」っていうのを極められるし、新しい発見ができるし……決まった型にそったカリキュラムがあるわけじゃないからこどもたちが本当にいろいろな関心をもってそれぞれに学習をすすめていくわけだけれども、そういうのに触れられるっていうところが大きな影響だったっていうことなんですね。じゃあ最後なんですけど、これからどんなふうにご自分の人生をデザインしていきたいですかっていう質問なんですが…

人生をデザインか…。やっぱ今パッと出るだけでも、魚が好きで、ギターが好きで、バイク好きで、車好きで、絵描くの好きで、旅行とかも好きやし、出そうと思ったらめちゃくちゃ出てくるから、趣味はいつなっても辞めたくないなっていうか。仕事でやりたいことをやれんくて、どんどんどんどんふけてくって言ったら何ですけど、やっぱり自分の好きなことをやりながら、人のためにもなって、親孝行もできて……何やろ、「デザイン」って難しいな……でも今の一番の夢はホンダに就職したいなって。ホンダの社員さんが、自分のデザインしたバイクが街を走っていたのを見た時すごく嬉しかったって言ってて。僕も、僕がデザインしたものを誰かが運転してるのを見たい、みたいな。自分がデザインしたもので人を幸せにしたいなって思ってます。

——今日は本当楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。サメちゃんにもよろしくお伝えください〜。

インタビューを終えて・・・

こどもの森の合い言葉である「こどもが学びの主人公(小学部)」・「学ぶと生きるをデザインする(中学部)」で表されている理念は素晴らしい。けれど、卒業後も学び続けることを選択するならば、そのような理念と受験偏重教育とのギャップにさいなまれてしまいます。今でこそ多様な生徒、学生へ門戸を開く学校が増え進学先の選択肢は多少増えつつあるものの、それでもなお非主流の学びを受けてきた人たちが、さらに学び続けることには大きな困難がつきまといます。そんななか、こどもの森で学んだ人たちは卒業後にこのギャップをどうやって埋め、学び続けているのか——。わたしがこのプロジェクトに関心をもったのはこのような背景がありました。

このたびゆうとさんにインタビューする機会に恵まれ、初対面ながら約50分にわたってお話をうかがうことができました。ゆうとさんは、ご自身の持つ多岐にわたる関心、たくましい行動力、自分の気持ちや考えを豊かな語彙で表現する力、家族や、友人を思いやる温かい心といった彼の持つ素晴らしい力の淵源が、こどもの森で過ごした日々にあると明言されていました。また、このような力はテストの点数でははかれないものであるというゆうとさんの言葉は、受験偏重社会の盲点を突く言葉だと思いました。自分自身を信じ、自分も他人も大切にしながらハッピーな日々を過ごそうと前向きに歩んでいるゆうとさんを、とてもたくましく感じました。素敵な時間をくださったことにこころからの「ありがとう」を送りたいです。(菅原よしの)