第23回を迎える教育カフェマラソン、今回は磯井純充さん(まちライブラリー提唱者)をお迎えしました。
お話をいただく前にこどもの森学園を見学されたようで、
「素晴らしい学園。ここで育った子どもが将来どうなるか、とても楽しみ」
というお言葉から話題提供が始まりました。
まずは磯井さんの略歴のお話。大阪は天満橋のご出身。
森ビルの社員だったという磯井さん(現在は森記念財団に出向)、1987年に「企業=教育機関」という森ビルの創始者・森泰吉郎さんの考え方に基づいた私塾「アーク都市塾」の設立に携わられました。
そのアーク都市塾の変遷を、階数と坪数の増加に合わせて、以下のようにお話されておりました。
【1987年・地下4階・20坪】
「アーク都市塾」
磯井さんには「使ってやるか!」という感じで声がかかった、というお話が。
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【1996年・地上36階・450坪】
「アークアカデミーヒルズ」
磯井さんのアイデアによるもの。今で言うサテライトキャンパスのようなもの。
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【2003年・地上49階・3000坪】
「六本木アカデミーヒルズ」
こちらも磯井さんのアイデアによる会員制ライブラリー。「天守閣」と表現されていたのが印象的でした。
IT化も進み、確かに先進性があり、そして何より実収益も増加していったものの、「顔の見える関係が極小化」していくことに不安があったそうです。地下から地上に上がっていくに従って「(人々から)目線が乖離」していく、とも。(「勘違いの始まり」だったという磯井さんのお言葉が大変印象的でした。)
そうした葛藤の中、磯井さんに転機が訪れます。
友廣裕一さんとの出会いです。同じく大阪生まれで、磯井さんよりだいぶ年下だそうですが、磯井さんは友廣さんを「師匠」と呼びます。
友廣さんは早稲田大学をご卒業後、「実際に地域って、どうなっているんだろう?」という想いから、(その土地その土地で農業、漁業のお手伝いをしながら)80以上の農村漁村をヒッチハイクなどで廻られた方。磯井さんも友廣さんと半年間、一緒に歩き回ったそうです。その際、友廣さんの「決して相手を値踏みしない」性格に(当時打算で物ごとを考えていた磯井さんと真逆だった、ということもあり)、大変心打たれたそうです。
また、友廣さんが教え子だったという友成真一さん(早稲田大学大学院教授)の「問題はタコツボ(組織)ではなくタコ(個人)だった」「マクロからミクロへ」といった、「自分経営」の考え方にも大変影響を受けたそうです。
略歴のお話、友廣さん、友成さんとの出会いのお話を伺っていて、森ビルの地下から「天守閣」にまで乖離してしまった磯井さんの目線が、また地上にすっと降りてくるような、そんな不思議な感覚に襲われました。
そんな磯井さんが提唱者となる「まちライブラリー」についてのお話に移ります。まちライブラリーは「個人的なスタンスで、暇つぶしで始めたら広まっていった」というお話から始まりました。昨年2013年にはグッドデザイン賞、Library of the yearを受賞しています。
「『図書館に人が来ない』ではなく『人が行くところに本を』」
「『有名人の(大規模な)講演会』ではなく『身近な人で教え合う学縁(がくえん)』」
を実践したのがまちライブラリー、とのご説明に、(六本木アカデミーヒルズのお話の際に「極小化」してしまったとおっしゃられていた)「顔の見える関係」というお言葉がふと頭をよぎりました。そして2010年、中央区平野町にある小さなビルの一室を改装して、最初のまちライブラリーが誕生しました。
基本的には、イベント→本集め(参加者の寄付)→棚作り→図書館、というのまちライブラリーの基本サイクルです。「人が行くところに本を」という理念通り、いずれも場所を問わないのが特徴で、
カフェの中、ゲストハウスの中、お寺の中、自然の中(BBQ付き)、歯医者さんの中(歯医者さんによるカクテル講座付き※ただし砂糖は使えないのでキシリトールで)、病院の中(待ち時間に読める病院スタッフ推薦本)、商店街の中、個人の家の中(亡くなった奥さんの蔵書を使ったライブラリー)・・・
と実に様々な事例が、たくさんの写真と共に紹介されました。ユニークな本棚はもちろんのこと、そこに集う人々の多様さがとりわけ目を引きました。「世代、性別、立場を越えた『図書館家族』が生まれつつあります」という磯井さんのお言葉通り、という印象でした。空っぽの本棚に参加費代わりに本を入れていくイベント「植本祭」のお話も大変興味深く拝聴しました。
話題提供の最後に、結論として磯井さんが主張されておりました、
「企業・大学・病院・図書館 ⇒ 利用者」という「一方的」な関係ではなく、
「企業・大学・病院・図書館 ⇔ 利用者」(「利用者 ⇔ 利用者」同士も含む)という「双方的」な関係へ
というお話、そしてその喩えとして挙げられていた、パンや味噌を発酵させる「酵母菌(=組織や社会を活性化させる、自立した個人、と私は理解しました)」のお話、「薬は飲むだけでは実は効かない、receptorがあって初めて効く」というお話、いずれにも、大きな「組織」の一枚岩な力よりも、小さな「個人」の多様な力(の集まり)の方がすごい(おもしろい)、という磯井さんの信念が現れているように思いました。
そうした話題提供を受けて、熟議は「どんな酵母菌になりたいか?」「本を使って、どんな人とのつながり方ができるか?」の2つのテーマで行われました。人が個人として輝き、そんな個人通しがつながっていく、様々なアイデアが飛び交いました。
熟議の後に磯井さんのお話に出た「生物にとって最も必要なものは『多様性』」であり、その証拠に「書店のベストセラーランキングより、身近な人の頭の中にあるブックリストの方が、ずっと多様性に満ちているし、ずっとおもしろい」というお言葉を受け、今年の読書の秋は、誰か身近な人に推薦してもったものを読もうかしらと思いつつ、帰路につきました。今回も大変興味深いお話、誠にありがとうございました!